小さな編集長の雑感(限定版)

小さなメディアの編集長が、仕事や働き方の気づきを書き留めるブログ。限定版。

雑談の捉え方で組織の生産性が変わる、という話

最近、これからのマネジメントをテーマに取材をしたり、多方面で記事を読みあさったりしていると、ひとつのキーワードが出てくることが多くあります。それが「雑談」です。そこで唐突ですが、読者の方に質問です。あなたの職場では「雑談」はポジティブに捉えられているでしょうか。ネガティブに捉えられているでしょうか。

どうやら、この雑談の捉え方によって、組織の生産性が大きく変わる、というのが今日のお話です。まずは、最近気になった「雑談」にまつわる記事を紹介します。


最初の記事で指摘されているのは、グループのもっとも重要な成功の予測因子は、同僚とのやり取りの量であるということです。またここが重要で、あくまでも量が大切であり、質ではないといいます。話す内容は無関係で、技術的なことであろうと、単なる暇つぶしのおしゃべりであろうと、他人と話しをすればするほど、生産性が向上するそうです。お金をかけないものとして、食卓のテーブルを大きくして大人数で交流を促したところ、パフォーマンスがあがったという話も。

2つ目の記事は、ホウレンソウのつぎは、ザッソウ(雑談の雑、相談の相)が重要になるという話。とかくイノベーションにつながる突飛なアイデアは、チームの雑談の中から生まれるといいます。そして雑談は、心理的安全がキープされて初めて成るという話です。また雑談のある職場は、何より「楽しそうだ」とも言っています。

また、雑談の効能として「相談しやすくなる」という効果も。物事を解決するのにいまは個ではなく、チームで解決していかなければならない。そのときに、チームの人となりがわかり、知っている人が困っていたら自主的に助けたいって思うのが、人間の性であり、これが有機的にチームワークにつながることが指摘されています。

3つ目の記事は、糸井重里さんのほぼ日の話。実際にその組織で働いた社会学者がほぼ日の不思議な雑談の文化にアプローチしたものです。ほぼ日刊糸井新聞のようにメディアを運営していることもあり、社員のクリエイティビティを発揮させる上で、雑談は重要な機能を果たしているという指摘がされています。そして、自身がグッときたのは、この言葉「あえて意地悪く言えば、(雑談は)組織のなかで半ば強制的に各人の個性を磨いてつくり上げ、個々人の特性を使い倒そうとする姿勢と習慣だと言い換えることもできる」というもの。雑談が個々人の個性を磨き、特性をあぶり出し、それを使い倒すための機能的なものだといいます。使いたおすってすごい言葉ですね。

4つ目の記事は、元Googleのアジアパシフィックの人事責任者の記事です。Googleの最高の上司は、メンバーのパフォーマンスを引き出すために「質の高い雑談」しているというお話。質の高いとは、メンバーの価値観が形成されてきたバックグラウンドがわかる雑談のこと。マネジメントする側はこのたわいもないと思われる会話の一端から、さまざまな情報を取得する。そしてチーム間の相互理解の深まりが心理的安全をつくる土壌になることが指摘されています。

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総論、乱暴ないい方ですが、「雑談が組織の生産性を向上させる」という話です。もともと経営管理における考え方の大部分は、フレデリック・ウィンズロー・テイラーのルーティンの標準化とプロセスの最適化が生産性の肝という科学的経営管理に沿ったものです。一方で、モノを大量に生産した時代から、シェアリングといった新しいモノサシが価値を生む時代には、他にはないクリエイティブが付加価値を生む時代になります。そのため、過度な標準化を進め、無駄を削ぎ落とすプロセス最適化では必然的に社員が歯車化し、持続的成長を阻む要因となることは否定できません。これからのマネジメントは、個の特性を活かしきること。そして、チームとしてアイデアを昇華させる仕組みをつくることが、生産性を大きく飛躍させるヒントがあるように感じます。

そして、生産性を支える機能のひとつが「雑談」というわけです。

ただ先ほど「乱暴」といったように、職場でただ雑談した方が生産性が高まるという指摘もわたしは違うと思っています。実際に上記に挙げた組織の方にお話を聞くと、「組織の目的を理解している」「社員の自立性が高い」など、雑談で得られた情報やアイデアをしっかりと仕事に落とし込む素地が整えられているという背景があります。

昨今、働き方改革の名の下に「長時間労働の是正」が叫ばれています。中には、時間当たりの生産性を向上させるために無駄と思われがちな「雑談」を排除するという職場もあるのではないでしょうか。しかし、会社を大きく俯瞰すると持続的かつ創造的な組織には、そのコアバリューを支える「雑談」という機能が組み込まれている可能性があります。自組織のパフォーマンスの源泉の理解不足により、実はそれを支える雑談の価値を誤って評価していないか、もう一度振り返る必要があるかもしれません。

さて、ここで改めてこの記事の最初の質問をしてみます。

あなたの職場では「雑談」はポジティブに捉えられているでしょうか。
ネガティブに捉えられているでしょうか。

その根っこに、生産性向上のヒントが隠されているのかもしれません。